机上、枝条、そのほか

机上、枝条、そのほか

2009-08-01から1ヶ月間の記事一覧

アフォリズムのリハビリテーション #1183

■燃ゆる血よ、僕をどうしようといふのだ? 夏の眞晝(まひる)の、動かぬ雲よ…… 動かぬ雲も無花果の葉も、 僕をどうしようといふのだらう? 鳴いてゐる蝉も、照りかへす屋根も、 僕の血に沁み、堪えざらしめる。 燃ゆる血よ、僕をどうしようといふのだ? 感じ…

アフォリズムのリハビリテーション #1181

■月夜の晩に、ボタンが一つ 波打際に、落ちてゐた、 それを拾つて、役立てようと 僕は思つたわけでもないが 月に向かつてそれは抛(はふ)れず 浪に向かつてそれは抛れず 僕はそれを、袂に入れた。 月夜の晩に、拾つたボタンは 指先に沁み、心に沁みた。 月夜…

アフォリズムのリハビリテーション #1179

■ポッカリ月が出ましたら、 船を浮べて出掛けませう。 波はヒタヒタ打つでせう、 風も少しはあるでせう。 沖に出たらば暗いでせう、 櫂(かい)から滴垂(したゝ)る水の音は 昵懇(ちか)しいものに聞こえませう、 ――あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。 月は聽き耳…

アフォリズムのリハビリテーション #1178

■東明(しののめ)の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く はたなびく小旗の如く涕(な)かんかな 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1177

■老いたる者をして靜謐(せいひつ)の裡(うち)にあらしめよ そは彼等こころゆくまで悔いんためなり 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1176

■雨の中にはとほく聞け、 やさしいやさしい唇を。 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1175

■腹たちて紙三枚をさきてみぬ四枚目からが惜しく思はる 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1173

■疲れやつれた美しい顔よ、 私はおまへを愛す。 さうあるべきがよかつたかも知れない多くの元氣な顔たちの中に、 私は容易におまへを見付ける。 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1172

■人には自分を紛らはす力があるので、 人はまづみんな幸福さうに見えるのだが、 人には早晩紛らはせない悲しみがくるのだ。 悲しみが自分で、自分が悲しみの時がくるのだ。 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1171

■神よ私をお憐れみ下さい! 私は弱いので、 悲しみに出遇ふごとに自分が支へきれずに、 生活を言葉に換へてしまひます。 そして堅くなりすぎるか 自堕落になりすぎるかしなければ 自分を保つすべがないやうな破目(はめ)になります。 神よ私をお憐れみ下さい…

アフォリズムのリハビリテーション #1170

■ああ、それは不可(いけ)ないことだ! 降りくる悲しみを少しもうけとめないで、 安易で架空な有頂天を幸福と感じ做(な)し 自分を賣る店を探して走り廻るとは、 なんと悲しく悲しいことだ…… 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1169

■それは冷たい。石のやうだ 過去を抱いてゐる。 力も入れないで むつちり緊(しま)つてゐる。 捨てたんだ、多分は意志を。 享受してるんだ、夜の空氣を。 流れ流れてゐてそれでも ただ崩れないといふだけなんだ。 脆いんだ、密度は大であるのに。 やがて黎明(…