机上、枝条、そのほか

机上、枝条、そのほか

2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

アフォリズムのリハビリテーション #1168

■人類の背後には、はや暗雲が密集してゐる 多くの人はまだそのことに氣が付かぬ 氣が付いた所で、格別別樣のことが出來だすわけではないのだが、 氣が付かれたら、諸君ももつと病的になられるであらう。 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1167

■明知が群衆の時間の中に丁度よく浮んで流れるのには 二つの方法がある。 一は大抵の奴が實施してゐるディレッタンティズム、 一は良心が自ら煉獄を通過すること。 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1166

■觀念の戀愛とは 燒砂ですか 紙で包んで 棄てませう 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1165

■あゝ戀が形とならない時 その時失戀をしとけばよかつたのです 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1164

■やい! いつたい何が表現出來ました? 自棄のない詩は 神の詩か 凡人の詩か そのどつちかと僕が決めたげます 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1163

■田の中にテニスコートがありますかい? 春風です よろこびやがれ凡俗! 名詞の換言で日が暮れよう 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1162

■自然が美しいといふことは 自然がカンヴァスの上でも美しいといふことかい―― 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1161

■ひよつとしたなら昔から おれの手に負へたのはこの怠惰だけだつたかもしれぬ 眞面目な希望も その怠惰の中から 憧憬したのにすぎなかつたかもしれぬ 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1160

■ 幼年時 私の上に降る雪は 眞綿のやうでありました 少年時 私の上に降る雪は 霙(みぞれ)のやうでありました 十七――十九 私の上に降る雪は 霰(あられ)のやうに散りました 二十――二十二 私の上に降る雪は 雹であるかと思はれた 二十三 私の上に降る雪は ひど…

アフォリズムのリハビリテーション #1159

■『それではさよならといつて、 みように眞鍮(しんちゅう)の光澤かなんぞのやうな笑(ゑみ)を湛えて彼奴(あいつ)は、 そのドアの所を立去つたのだつたあね。 あの笑ひがどうも、生きてる者ののやうぢやあなかつたあね。 彼奴の目は、沼の水が澄んだときかなん…

アフォリズムのリハビリテーション #1158

■鈍い金色を滞(お)びて、空は曇つてゐる、――相變らずだ、―― とても高いので、僕は俯いてしまふ。 僕は倦怠を觀念して生きてゐるのだよ、 煙草の味が三通りくらゐにする。 死ももう、とほくはないのかもしれない…… 中原中也『中原中也全詩歌集』

アフォリズムのリハビリテーション #1156

■汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れつちまつた悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる 汚れつちまつた悲しみは たとへば狐の革裘(かはごろも) 汚れつちまつた悲しみは 小雪のかかつてちぢこまる 汚れつちまつた悲しみは なにのぞむなくねがふな…

アフォリズムのリハビリテーション #1155

■神社の鳥居が光をうけて 楡の葉が小さく揺すれる 夏の晝(ひる)の青々した木陰は 私の後悔を宥めてくれる 暗い後悔 いつでも付纏(つきまと)ふ後悔 馬鹿々々しい破笑にみちた私の過去は やがて涙つぽい晦瞑(くわいめい)となり やがて根強い疲勞となつた かく…

アフォリズムのリハビリテーション #1154

■夜、うつくしい魂は涕(な)いて、 ――かの女こそ正當(あたりき)なのに―― 夜、うつくしい魂は涕いて、 もう死んだつていいよう……といふのであった。 濕った野原の鄢い土、短い草の上を 夜風は吹いて、 死んだつていいよう、死んだつていいよう、と、 うつくし…

アフォリズムのリハビリテーション #1153

■せめて死の時には、 あの女が私の上に胸を披(ひら)いてくれるでせうか。 その時は白粧(おしろい)をつけてゐてはいや、 その時は白粧をつけてゐてはいや。 ただ静かにその胸を披いて、 私の眼に副射してゐて下さい。 何にも考へてくれてはいや、 たとへ私の…